まずは営団地下鉄・青山一丁目駅から徒歩七分の「ハイトリオ赤坂8丁目」。この物件を所有していたのは、安田プリントという中小企業だった。同社はまともに本業の印刷ビジネスをしていればいいものを、バブルに躍らされて次々にマンションを買い漁っていた。やっていることはすべて担保融資による自転車操業である。一つの物件を担保にして引き出した資金でつぎを買うという繰り返し。平成七年当時、所有していた物件は二百室にも及んでいた。
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O氏が占有を頼まれたのはそうした物件のひとつで、事務所として使用されていたマンションの一戸である。広さはおよそ三十坪。オーナーの安田プリントは、この部屋を担保に一億五千万円を引き出していた。バブル崩壊で資金繰りが滞ったため、所有していたマンションは次々と競売にかかっていく。ハイトリオ赤坂の最低落札価格は四千四百五十万円だったが、すでに三回競売にかかったにもかかわらず落札していなかった。オーナー側としてはいずれ競落されるにしろ、何がしかのものがほしい。そこでO氏に声かけたのだ。「なんとか競落できないようにしてくれないか」。そう頼まれたO氏は、ただちにハイトリオ赤坂へ移り住んだ。競売は公開入札であるから誰でも参加することができる。だが、入札希望者が出なければ、つぎには特別売却が行なわれる。これは入札とは違い早いもの順で処理される。つまり、指定期日の朝一番に裁判所に行けば、最低落札価格で物件を入手できるのだ。カネを上積みする必要もない。